CNCフライス加工部品を発注する際、バイヤーにとって最も重要な判断のひとつが「素材選定」です。材料の選び方は、部品の強度や耐食性はもちろん、表面仕上げ性、被削性、さらにはトータルコストにまで大きな影響を与えます。選択肢が非常に多い中で、用途要件に応じてCNCフライス加工に最適な金属・樹脂を理解しておくことが非常に重要です。
本ガイドでは、CNCフライス加工でよく使用されるアルミニウム、鋼、銅、チタン、エンジニアリングプラスチックなどの代表的な材料について、その特長、注意点、カスタム部品バイヤーにとっての理想的な用途をわかりやすく解説します。
CNCフライス加工用の材料を選定する際、バイヤーは次のような重要要素を総合的に評価する必要があります。
被削性:どれだけ容易に切削・成形できるか。工具コストやサイクルタイムに直結します。
機械的特性:降伏強さ、引張強さ、硬さなど、負荷条件に対する耐性を決める指標です。
耐熱性・耐薬品性:高温環境や腐食性の強い環境で使用される部品では必須の要件です。
表面仕上げ要求:研磨、アルマイト、コーティングなどの後処理との相性が材料によって異なります。
使用環境:医療や食品分野での生体適合性、電気・電子分野での絶縁性など、産業によって求められる条件が変わります。
コストと入手性:試作から量産へのスケールアップ、リードタイム、材料費に影響します。
アルミニウムは、軽量、高い被削性、優れた熱伝導性を兼ね備えており、CNCフライス加工で最も一般的に使用される材料です。非磁性で耐食性にも優れ、高速切削にも対応できるため、多くの産業で重宝されています。
代表的なアルミ合金グレードの比較
Grade | Tensile Strength (MPa) | Machinability | Applications |
|---|---|---|---|
6061 | 290 | Excellent | 治具、筐体、構造部品 |
7075 | 570 | Good | 航空宇宙、モータースポーツ、高荷重部品 |
ADC12 (A380) | 310 | Good (cast) | ダイカスト筐体、コンシューマーエレクトロニクス |
アルミCNC加工では、最大15,000 rpmクラスの高スピンドル回転や良好な切りくず排出性により、試作から量産までスピーディーな対応が可能です。
ステンレス鋼は、優れた機械的強度と耐食性、高い耐久性を兼ね備えた材料です。一方で、加工硬化しやすく熱伝導率も低いため、アルミに比べると加工難易度は高くなります。
代表的なステンレス鋼グレード
Grade | Tensile Strength (MPa) | Corrosion Resistance | Machinability | Applications |
|---|---|---|---|---|
SUS303 | 520 | Moderate | Excellent | 機械加工継手、シャフト類 |
SUS304 | 520 | High | Moderate | 食品・化学・海洋用途部品 |
SUS316 | 530 | Very High | Moderate | 医療、海洋、化学プラント部品 |
ステンレス鋼CNC加工は、衛生性や耐圧性、塩水環境での耐久性が求められる用途に適しています。
チタンは、高強度かつ軽量で、生体適合性にも優れた材料です。また、耐食性が非常に高い一方、熱伝導率が低く工具との反応性も高いため、低速切削と専用コーティング工具が必要になります。
代表的なチタングレード
Grade | Tensile Strength (MPa) | Density (g/cm³) | Machinability | Applications |
|---|---|---|---|---|
Ti-6Al-4V | 900 | 4.43 | Low | 航空宇宙用ブラケット、インプラント、遮熱部品 |
Ti-6Al-4VのCNC加工は、軽量化と耐食性が重視される航空宇宙・医療分野で広く採用されています。
銅および真鍮合金は、非常に優れた電気・熱伝導性を持つ材料です。特に真鍮は被削性に優れ、細かい形状やねじ加工にも適しています。
銅・真鍮グレードの概要
Material | Tensile Strength (MPa) | Conductivity (% IACS) | Machinability | Applications |
|---|---|---|---|---|
Copper C101 | 220 | >101 | Moderate | バスバー、コンタクト、熱交換器 |
Brass C360 | 345 | 28 | Excellent | バルブ、継手、精密ギア |
銅CNC加工は電力伝送系の部品に不可欠であり、真鍮CNC加工は装飾部品や機械アセンブリ部品に適しています。
炭素鋼は、高い強度と優れたコスト性能を兼ね備えており、構造部品や機械部品として広く用いられています。ただし、一般的に防錆のための表面処理が必要です。
一般的な炭素鋼グレード
Grade | Tensile Strength (MPa) | Surface Treatment Required | Applications |
|---|---|---|---|
1018 | 440 | Yes | シャフト、ファスナー、支持部材 |
4140 | 655 | Yes (Quench & Temper) | 工具、ギア、産業機械部品 |
炭素鋼のCNC加工は、荷重を受ける構造物、駆動シャフト、精密工具などに最適です。
POM(アセタール)は、高剛性・低摩擦・優れた耐摩耗性と寸法安定性を備えたエンジニアリングプラスチックです。
Property | Value |
|---|---|
Tensile Strength | ~70 MPa |
Water Absorption | <0.2% |
Best Use | ブッシュ、ギア、バルブボディ |
アセタール(POM)のCNC加工は、低摩耗・低吸水が求められる機械部品に最適です。
PEEKは、約250°Cまでの連続使用に耐える高性能熱可塑性樹脂で、薬品、放射線、摩耗に対して非常に高い耐性を持ちます。
Property | Value |
|---|---|
Tensile Strength | ~100 MPa |
Temp Resistance | 250°C |
Best Use | 航空宇宙、インプラント、エネルギーシステム |
PEEKのCNC加工は、航空宇宙、医療、半導体といった高要求用途で一般的です。
PTFEは、非常に優れた耐薬品性、低摩擦係数(0.04)、広い温度範囲での安定性を備えた材料です。一方、柔らかく変形しやすいため、加工難易度は高めです。
Property | Value |
|---|---|
Melting Point | 327°C |
Coefficient of Friction | 0.04 |
Best Use | シール、ガスケット、薬液タンクライナー |
PTFEのCNC加工は、非粘着性や高い耐薬品性が求められる環境に最適です。
ナイロンは、耐衝撃性と低摩擦性に優れたコストパフォーマンスの高い樹脂です。ただし、吸水性があり、膨張・寸法変化が起こりやすい点には注意が必要です。
Property | Value |
|---|---|
Tensile Strength | ~75 MPa |
Moisture Absorption | 1.5–3% |
Best Use | ローラー、スペーサー、摺動プレート |
ナイロンCNC加工は、乾燥環境で使用される機械部品に推奨されます。
PMMA(アクリル)は、軽量で高い透明性(約92%の光透過率)と良好な耐候性を備えた樹脂です。ただし、他のプラスチックと比べると脆く、衝撃に弱いという特性があります。
Property | Value |
|---|---|
Transparency | ~92% light transmittance |
Tensile Strength | ~70 MPa |
Best Use | 光学ハウジング、パネル、ディスプレイ部品 |
アクリルCNC加工では、ディスプレイ用途や医療用途向けの透明で研磨された部品を製作できます。
CNCフライス加工に最適な材料を選ぶには、機械性能、加工コスト、耐熱・耐薬品性、表面処理オプションなどを総合的にバランスさせることが重要です。プロジェクトごとに要求仕様は異なり、材料選定はその成功を左右する要素のひとつです。
Newayでは、設計・見積りの段階からバイヤーと協働し、性能とコスト目標に最も適した材料をご提案します。試作から量産スケールへの移行まで、金属・樹脂の両方に対応した高精度フライス加工と幅広い表面処理をワンストップでサポートします。