ステンレス鋼と炭素鋼の切削条件の根本的な違いは、それぞれの金属組織学的特性に由来します。一般的に炭素鋼は加工しやすい一方で、ステンレス鋼はその特有の課題を克服するために、より精密なアプローチが求められます。これらの違いを理解することは、工具寿命・表面仕上げ・サイクルタイムを最適化するための鍵です。最大の違いは、加工硬化・熱伝導・切削力の管理方法にあります。
ステンレス鋼: オーステナイト系(304、316など)は、加工中に急速に加工硬化する傾向があります。工具が「切削」ではなく「擦る」状態になると、表面硬度が急上昇し、工具摩耗や次工程での破損リスクが大幅に増加します。
炭素鋼: 加工硬化の傾向は非常に低く、軽い切削や一時的な擦りにも寛容です。
パラメータへの影響: ステンレス鋼では、高く一貫した送り(Feed)が必要で、常に加工硬化層の下を切削する必要があります。「剛性と積極性」が原則です。炭素鋼では、送りを仕上げ・荒取りに応じて柔軟に調整できます。
ステンレス鋼: 熱伝導率が低く(約15〜25 W/m·K)、発生した熱が工具-被削材界面に集中しやすい特性を持ちます。そのため工具先端の温度が上昇しやすくなります。
炭素鋼: 熱伝導率が高く(約45〜65 W/m·K)、発生した熱をチップや母材側へ効率的に逃がすことができます。
パラメータへの影響: ステンレス鋼の熱を管理するためには、切削速度(SFM)を炭素鋼より大幅に低く設定する必要があります。例えば、1018鋼を500〜600 SFMで荒加工できても、304ステンレスでは200〜300 SFMが適正範囲です。さらに高圧クーラントの使用が不可欠です。
ステンレス鋼: 一般に降伏強度・引張強度が高く、高温下でも強度を維持するため「切りにくい」材料です。
パラメータへの影響: ステンレス鋼は高い剛性と出力を必要とし、軸方向の切込み深さは控えめに設定して工具負荷を抑える必要があります。特に小径工具ではこの影響が顕著です。
ステンレス鋼: 長く連続した紐状の切りくずを生成しやすく、排出が難しいため、仕上げ面や工具を損傷することがあります。
炭素鋼: 一般的に短く「C字型」の切りくずを形成しやすく、適切なチップブレーカを使用すれば排出が容易です。
パラメータへの影響: ステンレス鋼には、鋭利な正すくい角を持つ工具形状と効果的なチップブレーカが必須です。高い送りによりチップを厚くして切りやすくすることも有効です。炭素鋼では標準的なチップブレーカで広範囲の条件に対応可能です。
項目 | ステンレス鋼(例:304) | 炭素鋼(例:1018) |
|---|---|---|
切削速度(SFM) | 低〜中速(150〜350 SFM) | 中〜高速(400〜700 SFM) |
送り量(IPT) | 高く一定(加工硬化を防ぐために重要) | 柔軟に設定可(仕上げ・荒取りで調整) |
切込み深さ | 軸方向は保守的に。ラジアル方向はHSMで調整可。 | 剛性が高ければ積極的に設定可。 |
工具形状 | 鋭利な正すくい角が必須。 | 重切削では中立または負すくい角も可。 |
工具材質/コーティング | 靭性の高い超硬材。TiAlNコーティング推奨(耐熱性に優れる)。 | 超硬または簡易加工ではHSSも可。TiNやTiCNコートが一般的。 |
クーラント | 高圧フラッドクーラント必須(熱管理と切りくず排出に重要)。 | 使用推奨だが、ステンレスほど重要ではない。 |
炭素鋼からステンレス鋼への切り替えには、加工の「考え方」を根本的に変える必要があります:
速度(SFM)を下げる。 炭素鋼と同じ速度で加工すると、工具が焼損します。
送り(IPT)を維持または増加させる。 「優しく切る」のは逆効果。一定でしっかりした送りが加工硬化を防ぐ最良の手段です。
剛性とクーラントを最優先。 工具保持具・機械・治具のいずれかに剛性不足があると、ステンレス特有の高切削力と発熱で問題が顕在化します。
Newayのようなメーカーでは、この知識をCNC加工プロセスに直接組み込んでいます。炭素鋼やステンレス鋼など、材料ごとに実績のあるパラメータライブラリを保持しており、それぞれの特性に合わせてプロセスを自動最適化し、効率・工具寿命・品質を保証しています。