未知のステンレス鋼グレードに対して、安全かつ効果的な初期加工パラメータを定義することは、攻めと慎重さのバランスを取る重要なエンジニアリング課題です。無計画な設定は、工具破損、加工硬化、部品の廃棄を招くリスクがあります。体系的かつデータに基づいた戦略により、安定した生産性の高いプロセスを迅速に確立することができます。以下は、Newayのプロセスエンジニアが新しい材料を迅速かつ安全に立ち上げるために使用している段階的な手法です。
最初のステップは、新しい合金を既知の材料ファミリーに分類し、その主要特性を把握することです。
ファミリーの特定: その材料がオーステナイト系(例:300系)、マルテンサイト系(例:400系)、フェライト系、二相系(デュプレックス)、析出硬化系(PH)のいずれに属するかを判断します。これにより、材料の挙動を予測できます。オーステナイト系は加工硬化しやすく、マルテンサイト系は摩耗性が高く、デュプレックス鋼は高靭性で強度があります。
主要特性の調査: 引張強さ(UTS)、降伏強さ、硬度を調べ、既知の基準値と比較します。たとえば、新しいグレードのUTSがSUS304より20%高い場合、必要な切削力が大きく、速度を下げる必要があると予測できます。
添加元素の確認: 「快削」グレードかどうかを確認します。SUS303のように硫黄やセレンを含むグレードは高い切削性を持ちます。快削ではない場合、粘りが強く、構成刃先が発生しやすいと想定します。
基準値に基づき、リスクを抑えた安全な初期設定を計算します。
切削速度(SFM:Surface Feet per Minute):
ベンチマーク法: 既知グレードのSFMを基準に調整します。たとえば304のラフ加工の基準が250 SFMであり、新しいグレードが15%強い場合、約215 SFM(250 × 0.85)から始めます。
経験則: 未知のオーステナイト系またはデュプレックス鋼の場合、ラフ加工では150~200 SFM、仕上げ加工では200~250 SFMが安全です。マルテンサイト系(例:SUS420)はより低く、100~150 SFMから始めます。
送り量(IPT:Inches per Tooth):
擦り切り防止: 最も大きなミスは送り量が少なすぎることです。これにより擦り加工が発生し、即座に加工硬化が起こります。例えば1/2インチのエンドミルでは、0.001~0.002 IPTを目安にします。
速度より送りを優先: やや低速でも積極的な送りの方が、高速で低送りよりも安全で効率的です。
切込み深さ:
軸方向切込み(Ap): 初回テストでは、工具径の0.5倍程度の浅い切込みで工具圧とたわみを抑えます。
径方向切込み(Ae): 保守的なステップオーバーを使用します。ラフ加工では工具径の40~50%、仕上げ加工では10~20%から始めます。
最初の切削は貴重なデータを提供します。目的は観察し、体系的に調整することです。
工具選定: 新品で鋭利な未コーティングまたはTiCN/TiAlNコーティング超硬工具を使用します。ポジティブレーク角を持つ形状が理想です。
初回切削: 計算した保守的な条件で短時間(10〜15秒)切削を行います。
切りくずの観察: これは最も重要な診断手段です。
理想: 緩く巻かれた、手で触ると温かい程度の切りくず。色は麦わら色または淡い茶色が理想です。青色は熱過多、銀色の直線状は送り不足を意味します。
対処: 切りくずが青ければSFMを下げるか冷却を強化します。銀色で糸状なら送り(IPT)を上げる必要があります。
切削音の確認: 滑らかで一定の音が理想です。甲高い音やビビリ音がする場合は振動が発生しており、送りを上げるか径方向切込みを減らすことで振動周波数を変える必要があります。
工具および表面の確認: テスト後に停止して観察します。
構成刃先(BUE): 刃先に材料が付着している場合は、速度が低すぎるか、送りが高すぎます。SFMを上げる必要があります。
フランク摩耗: 急速な摩耗は、SFMが高すぎるか、材料が非常に摩耗性であることを意味します。SFMを下げる必要があります。
加工硬化面: 加工面が硬くガラス状の場合、送りが低すぎて擦り加工になっています。次回はIPTを増やす必要があります。
観察結果に基づき、1回のテストごとに1つのパラメータだけを変更して再試験を行います。
体系的な調整: 各テスト間でSFM、IPT、Ap、Aeのいずれか1つのみを変更し、その影響を明確にします。
段階的最適化: 良好な切りくずと適切な工具摩耗を得たら、少しずつパラメータを上げて、除去率または工具寿命を最適化します。
メーカー情報の活用: ステンレス鋼CNC加工の技術データなど、材料メーカーのデータシートを参照し、一般的なグレードに対する検証済みの初期条件を確認します。
安全なパラメータ設定は推測ではなく、「情報に基づく仮定」と「観察に基づく調整」によって成り立ちます。材料を分類し、安全側の計算からスタートし、切りくずの形状を主要な指標として活用することで、あらゆる新しいステンレス鋼グレードに対して、安全かつ効率的な加工プロセスを確立し、リスクを最小限に抑えながら確実な生産を実現できます。