腐食工学の観点から見ると、Ti-6Al-4Vなどのチタンおよびその合金は、安定した不動態酸化皮膜を有しているため、海水に対して非常に優れた耐食性を示します。しかし、長期間の曝露では、狭隙腐食、生物付着、浸食などの特有の課題が発生し、これらに対応するための特殊な表面処理が必要になる場合があります。適切な表面処理は、一般的な腐食を防止するためではなく、海洋環境における特定の性能特性を強化する目的で選択されます。
陽極酸化処理は、チタンの自然酸化皮膜を人工的に厚くし、安定化させる非常に効果的な電気化学プロセスです。
海洋用途での利点: 狭隙腐食や摩耗に対する耐性を大幅に向上させます。これは、バルブやファスナーなどの可動部品において特に重要です。セラミックのように硬く、塗装や接着の下地としても優れています。
留意点: CNC加工によって製造された複雑な形状にも適用可能であり、寸法変化もほとんどありません。
プラズマ溶射によってアルミナ(Al₂O₃)やチタニア(TiO₂)などの皮膜を形成し、厚く不活性な保護層を作ります。
海洋用途での利点: 砂を含む海水による浸食に対して非常に優れた耐性を持ち、熱絶縁性も付与します。石油・ガスインフラやポンプインペラーなど、大型部品に最適です。
留意点: コーティングは多孔質になる場合があり、シーリング処理が必要です。また膜厚が厚いため、高精度寸法部品には不向きです。
PVDコーティングは、TiN(窒化チタン)やCrN(窒化クロム)などの超硬・高密度薄膜を蒸着する方法です。
海洋用途での利点: 表面硬度を飛躍的に高め、優れた耐摩耗性と焼付き防止性能を発揮します。低摩擦係数により生物付着の抑制にも効果的です。特に発電設備や淡水化装置などの高摩耗部品に最適です。
留意点: PVDは「ライン・オブ・サイト」方式のため、複雑な内面形状には施工が難しい場合があります。高精度な精密加工部品に用いられる高級仕上げ手法です。
先に述べたように、MAOは基材に密着した厚く頑丈なセラミック酸化層を形成します。
海洋用途での利点: 極めて高い硬度・耐食性・耐熱性を兼ね備えています。密着性に優れ、キャビテーションや摩耗からの保護に効果的です。
留意点: 寸法変化および粗い表面仕上げは、設計段階で考慮する必要があります。
一般的な腐食および狭隙腐食防止: 最もコスト効率が高く信頼性のある選択肢は陽極酸化処理です。
摩耗・浸食耐性の強化: 高摩耗部にはPVDコーティングまたはマイクロアーク酸化を優先します。大型部品には熱溶射が代替手段となります。
生物付着の抑制: 研磨および陽極酸化処理された滑らかで硬い表面、またはPVDコーティングは海洋生物の付着を軽減します。さらに、これらの処理は防汚塗料の下地としても優れています。
設計と製造の連携: 表面処理の選択は製造プロセスと統合的に検討する必要があります。例えば、MAOを施す部品は事前に寸法を小さく加工し、PVD用の部品は影になる部分を最小限に抑える設計が求められます。